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素因減額とは?


既往症・持病があると賠償金が減らされる理由


交通事故のケガが長引いたり、思ったより症状が重かったりすると、保険会社から「事故だけが原因ではない」と言われることがあります。事故前から患っていた持病や、体質的な特徴が、ケガの回復を遅らせたり症状を重くしたりしたと判断される場合、その分の損害については加害者に負担させるのが公平ではない、という考え方が背景にあります。


ここでいう「既往症」とは、事故より前からかかっていた病気やケガのことです。専門的な言葉に聞こえますが、要は「事故以前からあった不調」だと考えてください。


この考え方にもとづいて、賠償額の一部を差し引く処理のことを「素因減額」と呼びます。保険会社から突然この言葉を使われると、大きく減額されるのではと不安になる方も多いですが、素因減額が認められるかどうかは事情によって変わってきます。提示された金額をそのまま受け入れる前に、まずは落ち着いて内容を確認することが出発点になります。


素因減額と「過失相殺」は何が違うのか


素因減額と混同されやすい言葉に「過失相殺」があります。過失相殺は、事故そのものが起きた原因について、被害者側にも一定の不注意(前方不注意など)があった場合に、その割合分を賠償額から差し引く仕組みです。事故の発生そのものに関わる話といえます。


一方の素因減額は、事故の原因ではなく、事故のあとの症状の重さや治療の長さに関わる話です。持病や体質が理由になっている点が、過失相殺とは大きく異なります。同じ「賠償額が減る」という結果でも、理由がまったく違うため、保険会社から説明を受けるときは、どちらの話をされているのかを意識すると混乱しにくくなります。


素因減額の対象になる2つの要因


素因減額の対象になる要因は、大きく分けて次の2つに整理されることが多いです。


  • 身体的要因:事故前からの持病や、身体的な特徴によるもの

  • 心因的要因:性格の傾向や、精神的な特徴によるもの


身体的要因(既往症・体質)


身体的要因とは、事故前からあった持病や、身体の状態に関わるものです。たとえば、以前から抱えていた首や腰の疾患が、事故をきっかけに悪化したとみなされるようなケースが挙げられます。


もともと軽い腰痛があった方が、事故後に痛みが強くなり通院が長引いた場合、保険会社側から「もともとの腰の状態が影響しているのではないか」と指摘されることがあります。


ただし、単に「首が長い」「骨格が細い」といった体の特徴そのものは、素因減額の対象にはならないとされています。最高裁判所(平成8年10月29日判決・いわゆる「首長判決」)は、「被害者が平均的な体格や通常の体質と異なる身体的特徴(首が長い等)を有していても、それが『疾患(病気)』に当たらない場合は減額できない」と明確に判示しました。


あくまで「疾患」と呼べるレベルのものが対象になるかどうかが、判断の分かれ目になります。年齢を重ねたことによる自然な変化についても、それだけを理由に大きく減額されるものではないと考えられています。


心因的要因(性格・精神的な傾向)


心因的要因とは、被害者の性格や精神的な傾向に関わるものです。ストレスへの反応の仕方や、もともとの精神的な既往症などが、これにあたります。


もっとも、性格や感じ方には個人差があるのが当然であり、通常の範囲内の個性であれば、素因減額の対象にはなりません。最高裁判例(昭和63年4月21日判決)でも、心因的減額が認められるのは「損害が通常発生する程度・範囲を著しく超えており、かつ心因的要因が損害拡大に寄与しているとき」とされています。


そのため、心因的要因が問題になるのは、通常の範囲を大きく超えていて、それが症状の悪化にはっきり関わっていると判断される場合に限られます。たとえば、検査では特に異常が見つからないのに、痛みや不調を強く訴える状態が長く続いている場合などが、この議論の対象になりやすい傾向があります。


どんなときに素因減額を主張されやすいのか


保険会社から素因減額を主張されやすいのは、次のようなケースです。


  • 事故の規模(車両の損傷等)が軽微であるにもかかわらず、通院が長期間にわたっている場合

  • レントゲンやMRIなどの画像検査で明確な異常が写らないのに、強い痛みや障害(非器質性障害)を訴え続けている場合


たとえば、軽い追突事故であったにもかかわらず、半年以上通院が続いているようなケースでは、保険会社側から「事故の影響だけでこれほど長引くだろうか」という主張が出やすくなります。また、レントゲンやMRIといった画像検査では異常が見当たらないのに、本人の訴える痛みだけが強いという場合も、同様の主張につながりやすい傾向があります。ただし、これらの事情があるからといって、必ず素因減額が認められるわけではありません。通院が長引いた理由が、持病ではなく治療方針や仕事の都合によるものである場合もあるため、事情を丁寧に確認する必要があります。


素因減額を主張されたら、まず何を確認すべきか


減額の根拠(立証責任は加害者側にあること)


素因減額を主張したい場合、その根拠を示す責任は、加害者側(保険会社側)にあるとされています。つまり、被害者の方が自分から「持病はありません」と証明する必要はなく、まずは保険会社側の説明に根拠があるかどうかを確認することが出発点になります。


反論の余地があるかどうかの考え方


素因減額を提示されたときは、次のような視点で内容を確認していくとよいでしょう。


  • 主張されている持病や性格の傾向が、本当に今回のケガの悪化に関係しているといえるのか

  • 単なる体の特徴や、通常の範囲内の個性にとどまるものではないか

  • 同じような症状のほかの事案と比べて、今回の減額幅が見合っているといえるのか


こうした点を整理していくことで、提示された減額が妥当かどうかを見極めやすくなります。


素因減額の割合はどう決まるのか


素因減額の割合は、法律であらかじめ数字が決まっているものではありません。素因減額が認められる場合、減額割合は20%〜30%程度とされることが多いです。事故の程度、ケガの内容、治療期間の長さなど、個別の事情を踏まえて判断されるのが一般的です。


そのため、同じような症状であっても、事故ごとに減額の割合は変わってきます。既往症があっても「素因減額を一切認めない(減額0%)」とした裁判例も数多く存在します。


提示された割合が高いと感じても、それだけで判断せず、まずは根拠を確認するところから始めてみてください。数字だけを見て諦めてしまう前に、その内訳を一つずつ確認していく姿勢が大切です。


弁護士に相談するメリット

素因減額の話が出てきたとき、専門的な内容のためご自身だけで判断するのは難しく感じられることが多いです。弁護士に相談することで、保険会社側の説明に根拠があるかどうかを整理し、反論できる部分があれば交渉を進めてもらえる可能性があります。


また、示談交渉だけでなく、必要に応じて資料の収集や医師とのやり取りについても相談できる点は、心強いポイントといえます。ご自身で保険会社とやり取りを続けるうちに、何が争点になっているのかが見えにくくなってしまうことも珍しくありません。第三者の視点が入ることで、状況を整理しやすくなる場合があります。


特に、素因減額の話は示談交渉の後半、賠償額の提示が近づいたタイミングで突然持ち出されることが多いため、被害者の方が焦って不利な条件で示談してしまうケースが後を絶ちません。。それまで淡々と治療や通院を続けてきた方にとっては、急に専門的な言葉を持ち出されて戸惑う場面になりやすいところです。あらかじめ「そういう話が出ることもある」と知っておくだけでも、実際に言われたときに落ち着いて対応しやすくなります。


まとめ

素因減額は、持病や性格的な傾向を理由に賠償額が減らされる考え方であり、事故そのものの過失を問う「過失相殺」とは根拠が異なります。保険会社から提示された内容をそのまま受け入れる前に、その根拠が本当に妥当なのかを確認すべきです。


持病があることや、治療が長引いていることに対して、不安や後ろめたさを感じる必要はありません。適切な賠償を得るために、まずは弁護士にご相談ください。